
MVNOの5G対応に意味はあるのか?各社のスタンスの違いを考察
2020年12月1日、関西電力系のMVNO「mineo」(マイネオ)が「5G通信オプション」の提供を開始しました。MVNOの5G対応はこれが初めてではありませんが、個人向けのメジャーなMVNOとしてはまだ事例が少ないこと、3キャリア網そろっての5G対応ということなどから注目を集めたようです。
そして同時に、「MVNOが5Gに対応する意味ってあるの?」という話題も再びSNSなどで見かけました。そこで今回は「現時点でMVNOが5Gに対応する意味」を考えてみると同時に、同じように5G回線を早期提供しているMVNO各社でもけっこう違う取り組み方、姿勢にも注目して見ていこうと思います。
MVNOが5Gに対応する意味
まず、「MVNOが5Gに対応する意味ってあるの?」という根本的な話から考えてみましょう。
前提として、2020年12月時点で日本の携帯キャリア各社が提供している5G網はノンスタンドアロン(NSA)方式です。これはざっくり言えば4Gのコアネットワークに5Gの基地局を載せたもので、5Gの実力をフルに引き出せるものではありません。本領が発揮されるのは純粋な5Gネットワークとなるスタンドアロン(SA)方式になってからで、たとえばドコモの場合、2021年度中に開始予定としています。
5Gの3つのメリットとして、よく「高速・大容量」「低遅延」「多数接続」という特徴が挙げられます。このうち、低遅延や多数接続はSA移行の話です。つまり、現時点での5Gのメリットは、MNOですら高速・大容量しかないのです。
そして、MNOから帯域を借りて運営しているMVNOにとって、高速・大容量はコスト面も含めて非常に実現が難しいものです。そもそも、現時点で低速なMVNOが多いのは末端の無線区間が主な原因ではないので、単純に5Gに対応すればMVNOも速くなるというわけではありません。
ただし、少し難しい話ですが、MVNOの5G回線が同じ会社の4G回線よりも速くなる場面もないわけではないと考えられます。
一般的には、キャリアのネットワークとMVNOの設備を繋ぐ接続点(相互接続点、POI)がボトルネックとなって昼休みなどの混雑時に速度が落ちている場合がほとんどです。しかし、多くの人が行き交うラッシュ時間帯のターミナル駅などの基地局が混む場所・時間帯では、(その大手キャリアのユーザーと一緒に)無線区間が混雑して速度低下に繋がることもあります。後者に関して言えば、5G対応MVNOでも速度改善の効果はある程度見られるでしょう。
そんなわけで、現時点で5G対応MVNOを選ぶメリットはごく限られた場面で混雑を避けられるという程度に過ぎません。
そう聞くと無意味なサービスのように思われるかもしれませんが、だからといって私は決して5Gに早期対応するMVNO各社を否定するつもりもありません。
逆説的な考え方になりますが、「現時点でMVNOが5G対応を見送る意味」もセットで考えてみてください。対応端末も5Gエリア(スポット)も少しずつ、でも確実に増えていきますし、そもそもどういう条件が整ったらMVNOが5Gに対応する意味があるのかも極めて曖昧です。選択肢を用意しておく意味で早めに対応しておくのは悪いことではないはずです。
5G対応MVNO各社のスタンスの違い
続いて、現時点で5G対応サービスを提供しているMVNO各社の事例を見ながら、そこから読み取れる各社の5G対応へのスタンスを考察します。
LinksMateの場合
日本国内のMVNOとしては、一番乗りで5Gに対応した「LinksMate」(リンクスメイト)。ゲーム内特典やカウントフリーオプションなどで主にゲーマー向けに訴求しているCygames系列の会社です。
特に技術的なアピールをしてきたところではないため、ここが真っ先に対応するのは意外だった、驚いたという人が多いのではないでしょうか。一応、MVNEを介さない直接契約のMVNOなので、早期対応の素地があったと言えなくはありません。
一番乗りの意外性はさておき、5G対応のメリットをどう考えているのか、そしてユーザーにどう説明しているのかという点に関しては、今回取り上げる3社の中では最も不明瞭・不誠実だと思います。
LinksMateはドコモ網のMVNOで、「5G回線オプション」(500円/月)を追加すると5Gを使えるようになります。そのオプションの説明ページがまあ酷い。
NSA方式の5Gサービスでは発揮されない「低遅延」「多数接続」といった特徴まで引き合いに出して『従来のLTEと比べてオンラインゲームや動画中継などのデータのやり取りがより快適に!』『従来のLTEと比べて大人数での同時接続がより快適に!』などと説明しています。ほぼ優良誤認のような実態の伴わない宣伝文句です。
穿った見方をすれば、「話題作りのために最速で対応しただけ」という印象。こんなの契約しちゃいけません。
IIJの場合
老舗のインターネットイニシアティブ(IIJ)は、現時点では法人向けのみ、au網の5G対応SIMを提供しています。
一口に法人向けと言っても色々なニーズがありますから、たとえば開発・検証目的で5G回線を必要としている顧客であれば、内容によっては必ずしも5Gらしい速度が出る必要はなく、繋がりさえすれば良いということも考えられます。それで安く済むなら万々歳でしょう。
技術的にはもちろん個人向けにも出せる体制は整っているのでしょうが、とても慎重な姿勢と言えます。
本日法人向けMVNOで5G対応の発表をしました。個人向けMVNO(IIJmio)については現時点で5G対応の予定は公表しておりません。5G対応エリア(スポット)が数少ないこと、また、個人利用で期待される「速度」を出すことが難しいことから、現時点では皆様にメリットをお届けできないと考えているためです。 https://t.co/Jzne2besEj
— 堂前@IIJ (@IIJ_doumae) October 29, 2020
mineoの場合
この記事の導入でも触れた通り、mineoは12月1日から「5G通信オプション」の提供を開始しました。ドコモ・au・ソフトバンクのトリプルキャリア対応で、4G契約に月額200円のオプションを追加すれば使えます。なお、2021年3月31日までに申し込めば最大6ヶ月間はオプション料金が無料になります。
個人向け、そして「5Gの高速通信が体験できる」などの若干危うさを感じる宣伝文句が使われてはいますが、どちらかといえば、今後増えていくであろう5G対応端末ユーザーのための提供という意味合いが強いものです。
また、高速化に関しても、LinksMateと比べれば納得の行く説明がされています。特にスタッフブログに掲載されている「mineoにおける『5G通信オプション』提供のメリットについて」という文章は具体的に分かりやすく説明されており、「MVNOが5Gに対応する意味ってあるの?」という素朴な疑問に対する良い答えになっていると思います。ぜひ一度読んでみてください。
Source:mineoスタッフブログ