
謎技術で作られた謎プラモ「BEST HIT CHRONICLE 1/1 カップヌードル」レビュー
2020年9月18日に発売されたバンダイのプラモデル「BEST HIT CHRONICLE 1/1 カップヌードル」を早速買ってきて組み立てたので紹介します。なんかもう、色々すごいキットでした。
特にブログでは触れていませんでしたが、実は最近、この「BEST HIT CHRONICLE」というシリーズにハマっています。
実在するヒット商品をプラモデルとして現代に甦らせるという企画で、これまでに初代「プレイステーション」と「セガサターン」(いずれも2/5スケール)が製品化されています。「ガンプラ」でおなじみのバンダイのプラモデル技術を惜しみなく注ぎ込んだ精巧な作りで、内部構造まで忠実に再現されており、組んでいてとても楽しいキットです。
そして、シリーズ第3弾として発売されたのが今回の「カップヌードル」。言わずと知れた日清食品の大ヒットロングセラー商品ですが、それにしたってなぜこれをプラモデルにしようと思ったのか……妙にかっこいいパッケージがもっともらしい雰囲気を出していますが「いや、なにこれ?」と頭がクラクラしてきます。
ひとまず開封してランナーをチェック。撮り忘れましたが、赤のパーツがもう少しあります。3分では出来ません。
シールなどの付属品。緑色の細長いバランのようなものは、細かく切ってネギに見立てるようです。
説明書に従い、まずはカップから組み立てて行きます。というより、本物のカップヌードルとは違って、プラモデル的にはこっちが主役です。
組み始めてすぐに分かるのは、「こんなキットはバンダイにしか作れない」ということです。ただ誰もプラモデルにしないような変な物を題材にしたネタキットということだけで言えば他社でもできるかもしれませんが、これだけのクオリティーで真剣に馬鹿げた物を作れるところは他にないでしょう。
そもそも、ガンダムという巨大IPとともに成長してきたバンダイのプラモデルは、一般的なプラモデルの常道からは外れた方向に進化し続けています。
タミヤでもアオシマでも、普通のスケールキットは塗装や接着が前提。それどころか、大手メーカーのキットだって部品を削るなどの加工をしなくてはまともに組み上がらないものも多々あります。本来はユーザーにもスキルが求められるのは当たり前、じっくりと手間暇かけて作ることを愉しむ世界です。
塗装をしなくても見栄えの良い多色整形による色分け、接着しなくてもバラバラにならずキツすぎることもない高い精度が求められるスナップフィット、(このキットは違いますが)ニッパーすら不要のタッチゲートなど、プラモデル業界全体としては超少数派なのにバンダイだけが当たり前のようにやっていることというのは少なくありません。
それは、幅広い層をターゲットに、誰でも簡単に見本通りの物が作れる「キャラクター商品としてのプラモデル」を他に類を見ない規模で展開し、長い年月をかけてそのための独自進化を遂げてきたからこそ蓄積された技術です。
話が少し脱線しましたが、このカップヌードルのプラモデルは一見ふざけた商品のように見えて、そんな「バンダイ驚異のメカニズム」が詰まっていると思うのです。
「カップヌードルのプラモデル」という不可解でキャッチーな存在に惹かれて、普段はプラモデルを作らない人が手に取っても、きっと大失敗することはなく組み立てられるはず……それはガンプラという特殊環境で鍛えられたバンダイのキットだからです。
こんなプラモデルにするには不向きなデザインの物を、塗装やシールに頼らず当然のように形にしてしまうという凄まじさ。「誰でも組み立てられる」の影に「他の誰にも作れない」匠の技を感じます。これが普通のプラモデルだと思ってしまうと不幸になるかもしれません。
カップの赤と金の部分を成型色で表現するために芸術的なまでのパーツ分割をするなんて、他のメーカーではできない、そしてそもそもやる必要に迫られたことすらないでしょう。
「CUP NOODLE」の文字を赤と白で執念的なまでに色分けするのもバンダイならではでしょうし(内側の白い部分はシールでいいじゃん、となりそうなものです)、そもそも他所のキットでこれをやったら白い部分のパーツがポロポロ落ちるか、かなり丁寧にパーツを処理しないとハマらないかのどちらかがオチです。
やりすぎなぐらい作り込まれたカップを完成させ、次は麺の組み立てへ。といっても、ほぼカップが本体なので、中身に手をつける頃には折り返し地点は過ぎています。
お湯を入れる前の麺の塊を作るためだけに、そんなにパーツを分ける必要ある?と不思議でしたが、外側の層を別パーツにしたことで奥行きが出ています。なんでもこれ、本物のカップヌードルでお湯が行き渡りやすいように採用されている「粗密麺塊構造」(上はぎっしり、下はスカスカ)まで再現しているとか……。
カップの側面を開けられるようになっていて、中身を確認できます。麺がカップの底から少し浮いているのは本物と同じ。「中間保持構造」といって、輸送時の振動や衝撃から麺を守るための工夫です。
具材もランナーから切り離していきます。普通は麺の上に穴を開けておいて具材を挿し込むようにするんじゃないかなと思いますが、あえて固定せずバラバラの状態。実物を3Dスキャンして忠実に形状を再現しています。
これだけ見ると「謎肉とタマゴは成型色だけでもそれっぽいけど、オレンジ色のエビはなんか違くない?」という印象でしたが、実はまだ仕掛けがあります。
オレンジ色のパーツに、白と赤の模様が入った半透明のシールを貼ることで非常にリアルなエビになるのです。貼り付けはそれほど難しくない、というよりちょっと雑なぐらいがそれっぽいかも。シールでエビのパーツ全体を覆うイメージです。
麺の上に置くとこんな感じ。
原材料の表記など、細かい部分はさすがにシールでの再現です。モールド自体はあるので、相当根気が要ると思いますがその気になれば塗ることもできるかと。
最後にフタを閉じれば完成……なのですが、シールなのでフタをしたらもう中身を見られないのが惜しく、完成させずに取ってあります。
フタ止めシールまであるとはさすが。シール関係でいえば、カップの底に貼る賞味期限・製造工場の印字も洒落が効いていました。製造所固有記号が架空の「BHC」になっているのですが、これってきっとバンダイホビーセンター(静岡にあるガンプラなどの生産拠点)のことですよね。
ネタキットのように見えて作り込みはガチ、バンダイの謎技術を堪能できる良作でした。そこまでやるかと舌を巻きつつ、複雑なのにピッタリと合う精度の良いパーツばかりでストレスフリーに気持ち良く組み立てられます。
値段は本物の10倍しますし、3分では出来ませんし食べられませんが、自宅で楽しめる連休の暇つぶしにいかがでしょうか。
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