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「LG Velvet」海外版レビュー、端正なデザインが光る起死回生のプレミアムスマホ

LGの日本未発売モデル「LG Velvet」(LM-G900N)を購入し、1ヶ月ほど使ってみました。知名度の問題か、それとも魅力が伝わりにくいのか、発売から3ヶ月ほど経つ割には日本で使っているマニアはSNSなどでほぼ見かけません。もしかしてこれ、国内初レビューなのでは……?

「LG Velvet」ってどんな機種?


LG Velvetは、2020年5月に発表されたLG製のAndroidスマートフォンです。韓国を皮切りに、EU圏の各国やアメリカ、カナダ、台湾などで順次発売されています。筆者が購入したモデルは韓国向け5Gモデル「LM-G900N」のKT版です。

LGは従来、GシリーズとVシリーズという2系統のフラッグシップモデルを展開してきましたが、不振のスマートフォン事業のテコ入れを図るため、今期からラインナップを再編します。新体制で登場する最初の機種がVelvetで、デザインを重視したプレミアムモデルとなっています。


6.8インチ(20.5:9)の大画面で、Wacom AES規格のスタイラスペンに対応。さらに、最近のGシリーズやVシリーズの特徴となっていた「外付け2画面」のDual Screen Caseも受け継ぎます。

LM-Gから始まる型番からもGシリーズの実質的な後継機であることが分かり、スペック的にハイエンドではないものの、フラッグシップと位置付けられる機種でしょう。各メーカーのフラッグシップモデルはハイエンドスペックである場合が多いですが、語義からすれば本来イコールではないですからね。

外観:トレンドへのアンチテーゼとも取れる端正なデザイン


まずは外観をチェック。前面は左右が少し湾曲しており、インカメラは水滴型ノッチで中央に配置。ベゼルは上下均等に余白が取られており、ギリギリまで攻めた狭額縁設計というわけではないので操作性も良好です。有機ELディスプレイの下には光学式の画面内指紋センサーが埋め込まれています。

一見ありがちな形なのですが、よく見ると四隅に金属フレームが回り込んでいて、華奢に見えるデザインなのに角から落ちてもガラスが割れにくい作り。見かけによらず、MIL規格準拠の耐衝撃性を備えています。ちなみに、IP68の防水・防塵仕様でもあります。


端正なデザインのVelvetの中でも、特に背面は美しいと思います。際限なく繰り広げられる多眼化や大型センサー、ペリスコープ型望遠レンズの採用などによって醜く盛り上がったカメラユニットを過度に強調する機種が増える中、Velvetはトレンドへのアンチテーゼとも取れるほどシンプルで整ったデザインです。

ちなみに、写真の端末の色は「Aurora Gray」。多くの地域で販売されている基本カラーです。一見地味なようで、真っ黒ではなく光の下限で造形の美しさが際立つ実に良い色でした。ちなみに、一部地域で販売されている4G版には完全な黒色もあります。一度見比べてみたいものですが……日本で見ることはないだろうなぁ。


カメラ周りのデザインは「レインドロップカメラ」と名付けられており、雨粒が落ちるさまをモチーフに、大きいカメラから小さいカメラ(LEDフラッシュ)へと縦一列に並べてあります。

最上段のメインカメラだけわずかに飛び出し、2個目以降はバックパネルに覆われた段差のない仕上げです。まあ、完全に平らだと気付かないうちにレンズを触ってしまい、撮影時に汚れていることが多々あるので、実用性を考えるとちょっとやりすぎかも。


前後のガラスパネルは同じように曲げられており、このシンメトリーな断面形状もデザイン上こだわったところだそうです。見た目の良し悪しはともかく、端が薄いおかげで持ちやすく、大画面のデメリットを意識せずに済みます。


右側面には電源キーがあります。

前後パネルをカーブさせて極薄のフレームで繋ぐという構成は、Galaxy Note10+に少し似ているかもしれません。6.8インチと大きめですが本体重量は約180gに抑えられているので、手に持つと体感的には軽めに思える端末です。


左側面には音量キーとGoogleアシスタントの呼び出しキー。

アシスタントキーは他のキーとは形状を変えてあり、端はフレームに溶け込み、中央部だけわずかに盛り上がった曲線的な形状となっています。細かい工夫ですが、このおかげで音量キーと間違えて押してしまうことはありません。

手探りで押す場面もある電源キーは分かりやすい形状、画面を見ながら押すアシスタントキーは意図した時にだけ押せれば良い形状と、明確に作り分けられていて好感が持てます。


底面にはイヤホンジャック、USB Type-C端子、スピーカーが並びます。シンメトリーなデザインにこだわるのなら、端子はフレームの中心線に揃えてもらいたいところ(iPhoneはこの辺、一部の廉価機以外は綺麗ですよね)。

上位寄りの機種でもイヤホンジャックを搭載し続けているのはLGらしいと思う反面、V60 ThinQまで長いこと搭載され続けてきた「Hi-Fi Quad DAC」は廃止されてしまいました。有線で良い音で聴けるというのはLG端末の長所のひとつだったので、少し残念。

Velvetのデザインの美しさは私の拙い写真だけでは伝えきれないので、お時間のある方は上の動画も見てみてください。正式発表の少し前に公開されたLG公式の動画です。正直、これを見た時点で購入を決意していました。

スペック・動作:ハイエンドではないけれど、ハイエンドに慣れたユーザーでも十分快適


Velvetのスペックはモデルによって異なり、5G版のSoCは「Snapdragon 765」または「Snapdragon 765G」、4G版は「Snapdragon 845」です。メモリは6GBまたは8GB、バッテリーは4300mAh。画面は6.8インチFHD+の有機ELです。詳細は以下の記事を参照してください。

私が購入した韓国版(LM-G900N)はSnapdragon 765にメモリ8GBの構成です。執筆時点では、メモリ容量が多いのは今のところ韓国版だけのようです。

ハイエンド機も頻繁に購入しており、直近ではSnapdragon 865搭載の「Galaxy S20」を使っていましたが、Snapdragon 765は十分に速く快適で、実用上は不足を感じません。


(ベンチマークアプリ「Geekbench 5」のスコア)

(ベンチマークアプリ「3DMark」のスコア)

ゲームなどはせず、普段使いでストレスなく快適に動く端末を求めてハイエンドを選んできた人には、もう7シリーズでも十分な域に達していると思います。強いて言えばTwitter for Androidがカクつく時があるかなと思いますが……あれはクソアプリどの端末で使っても重いですからね。

865を使った上で「765でも良い」どころか、865の発熱(※フルパワーでぶん回す傾向にある機種の話)や電池消費の激しさを考慮すると、モデム一体型で燃費の良い765の方が優れているような気さえします。NSAかつスポット的にしか使えない現状の5Gにそれほど関心がないのなら、あえてワンランク落として765搭載機を選ぶのもありだと思います。


通信周りの仕様について補足しておきます。公式サイトでは韓国版の対応バンドは公開されていませんが、実機で特殊なメニューを呼び出して確認したところ、NRはn78のみ、LTEはBand 1/2/3/4/5/7/8/12/13/17/18/19/20/25/26/28/38/39/40/41/66に対応していました。

ただし、韓国キャリア特有のTTA-VoLTEという特殊仕様に最適化されていてことや、韓国以外のSIMを入れた際に半ローミング扱いされてしまい一部の設定項目を触れないことなど、韓国版特有のクセのある仕様が災いして通常のVoLTE利用に難があるため、対応バンドこそ豊富ですが韓国版を買うのはあまりおすすめできません。


韓国版のクセの強さは通信周りに限ったことではなく、先述のように「半分ローミング扱いされている」せいで、ロック画面の時計は常に2ヶ国表示(右側は韓国固定)です。XDAやRedditで調べてみるとAndroid 8.1ぐらいまでは回避方法があったようですが、現状はお手上げ。

あと、欠点というわけではないのですが、韓国語が読めないとアップデート内容が分からない(アップデート通知が韓国語固定)のはご愛嬌。

Velvetの前にもGalaxyなどの韓国版を入手したことがありますが、メーカー・機種を問わず韓国版は「どうしても韓国版じゃないと手に入らない」物以外は手を出さない方が無難だと思います。

5Gが始まってからは割引施策の手厚さなどから韓国版が安く流通しているのも多々見かけますが、安いからと選ぶのはあまりおすすめできないかな……面倒事に遭遇しても調べまくって自己解決できるor許容できるぐらいの愛があるなら買っても良いかと。

UI・機能:2画面&ペン対応はレア

発売時点でのOSバージョンはAndroid 10です。メーカーによるUIのカスタマイズはそれほど手の込んだものではなく、基本に忠実。上下分割のマルチウィンドウのほかに、小窓表示のポップアップウィンドウが用意されているのは大画面を生かした使い方がしやすく良いと思います。

ユニークな機能を取り上げておくと、ボイスレコーダーアプリに「ASMRレコーディング」なる機能が搭載されています。実際に使う人がどれだけさておき、細かな調整ができる録音アプリがプリインストールされているというのは何か役立つ場面があるかもしれません。

そして、手書きメモアプリの「Qメモ+」も特徴的な機能です。日本で発売された「LG Q Stylus」にプリインストールされているものとほぼ同じで、日本語化も済んでいます。ちなみに、Velvetにはいつでもすぐに手書きメモを取れる「画面OFFメモ」という設定もあります。

本体内にペンを収納できるわけではないのが弱点ですが、Wacom AES規格の各種ペンを利用できます。ノートPCに付属する「LG gram 14」に付属するペンが推奨されているほか、入手性を考えるとWacom純正の「Bamboo Ink」やXPSシリーズの2in1モデル用に販売されている「Dellプレミアム・アクティブ・ペン」あたりが良さそうですね。


2画面での使い勝手は……すみません、まだ「Dual Screen Case」を購入していないので、また機会があれば別の記事で紹介したいと思います。G8X ThinQやV60 ThinQと違って2画面ケースは別売り、しかも約3万円となかなか値が張るのです。

プリインストールされているデュアルスクリーン関連アプリのバージョンなどを見る限り、2画面利用時の挙動は基本的にV60 ThinQ(あるいはAndroid 10アップデート後のG8 ThinQ)と同様と思われます。G8X ThinQの時点で2画面を繋げての利用に制限があったり、サブ画面ではIMEを変えられなかったりと色々クセがありましたが、現行仕様なら使ってみても良いかなと思っています。


ちなみにデュアルスクリーン関係で、個人的に発表以来ずっと疑問に思っていたことがあります。「サブ画面でも本体と同様にWacom AESペンを使えるのか?」ということです。海外のレビューでも全然言及されていなかったんですよね(レビュー自体が少ない上、フルセットで揃えている人はなかなか……)。

ところが、8月5日付けの公式記事(英文)を見るとしれっと言及されているではありませんか。

“QMemo+ and active pens work equally well on both the phone and the optional Dual Screen”とのことなので、どちらの画面でもしっかりペンを使えるようです。それならDual Screen Caseが少し高めなのも納得、買ってみようかなと興味が湧いてきました。

そういうの、もっとアピールすればいいのに……2画面でペン対応って、話題の「Surface Duo」ぐらいしかないのでは?ちゃんと売り込めばそれなりに武器になりそうな機能なのに、なんだか商売下手でもったいないなあと思います。

カメラ:クセのないチューニングがいい感じ


アウトカメラは約4800万画素(広角)+約800万画素(超広角)+約500万画素(深度)のトリプルカメラで、望遠はありません。インカメラは約1600万画素です。いくつか作例を用意したので、参考までにご覧ください。

(※以下、作例はクリックして大きいサイズで見られます。サイトの仕様上、元サイズではありませんのでご了承ください)

盛りすぎず自然な色味に仕上がるのがいい感じ。画素サイズ0.8μmで4800万画素ということなのでセンサーサイズはおそらく1/2型、大きめのセンサーサイズなので寄って撮るとけっこうボケますね。迫力のある構図で気持ち良く撮れる超広角カメラの写りも良好です。

弱点を挙げるとすれば、暗所ではノイズが目立つ場面も多く、ハードウェアとしてのカメラ性能はそれほど高くないと思われます。チューニングでうまくごまかせている場面が多い、という感じですかね。

総評:コスパという評価軸からは離れた確かな上質さがある良機種


Snapdragon 765/765G搭載のミッドハイレンジ機で定価8万円(※韓国版の場合)、さらに独自機能の鍵を握るDual Screen Caseは別売りで3万円。スペック表や値札の数字でしか判断できないコストパフォーマンス至上主義の人々からすれば話にならない機種でしょう。

他意はありませんが、日本市場ではこういう機種は売れないと思います。他意はありませんよ、本当に。

個人的には、こういうネットでググって出てきた情報だけであーだこーだとケチを付けるスペック厨のエアプ野郎には分からない魅力が詰まった機種は大好きですが、商業的にはどうなのかなぁ……LGスマホ部門の立て直しが掛かっているはずの機種なのに、方向性が通好みすぎやしないだろうか?と少し心配になります。

韓国メディアの報道によれば意外と売れ行きは好調なようですが、韓国国内での売れ行きは5G絡みの潤沢な補助金のおかげでしょうから、他国も含めると微妙なところですよね。一代限りで終わって欲しくはないものです。


冒頭の話に戻ると、フラッグシップとハイエンドは違うんですよ。

たとえば同じようにGalaxy Note10+を買っていた人が2人いたとして、片方はスマートフォンで一日何時間もバトロワ系ゲームをやり込んでいる人だとしたら、それは間違いなくハイエンドスマートフォンが必要で買っている人、スペック的にそれが必要だから買っている人でしょう。でも、フィーチャーフォン時代から開閉音やヒンジのスムーズさなどまで気にして「モノとしての良質さ」で選んできた流れで買っているのであれば、それは間違いなくハイエンドではなくフラッグシップを求めているユーザーでしょう。

少し前までなら、「ハイエンドが必要な人」なのか「フラッグシップが欲しい人」なのかを見極める必要も、それぞれに向けた機種を作り分ける必要もそれほどありませんでした。どんな機種でもせいぜい10万円に収まりましたし割引も効きましたから、ハイエンドかつフラッグシップの製品があれば済みます。

しかし、今のハイエンドスマートフォンほど価格帯が上がってくると、その限りではないはずです。「良い物が欲しい」だけの人に、PC並みの処理性能や何の意味があるのか分からない1億画素の豆粒センサーを訴求しても「こりゃ15万円するのも納得ですわ」とはなりませんし、反対に「高性能な端末が必要」なだけの人に、画面が折り曲げられるんだよすごいでしょとアピールしても「そんなことより高性能で安いの出せ」と言われてしまうかもしれません。

つまり、性能重視のハイエンド端末なのか、プレミアム路線の端末なのか、明確な意図を持って作らないとユーザーが着いてこない段階に来ていると思うのです。もちろん、考慮した上で従来通りハイエンドかつフラッグシップな名実ともに最上位の製品を作り続ける判断をするメーカーも多いでしょう。


そういった観点では、LG Velvetは新時代のフラッグシップモデルとしては非常に良いところを付いています。確かに、コスパ至上主義の高性能な端末が欲しい人々からすればこのスペックで8万円は高いでしょう。しかし見方を変えると、単に質の良い物が欲しくて、それほど必要としていない部分の進化が理由でも高価格化に付き合ってきた人々からすれば、これで8万円なら妥当と思えるはずです。

話が長くなりすぎましたが、刺さる人には間違いなく刺さる機種だと思います。ちなみに私は刺さりすぎてもう1台注文しました。

Source:公式サイト

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