
ちょっと懐かしい“縦折り”スタイルの高級スマホ「Galaxy Z Flip」(海外版)レビュー
日本では2月28日にau限定で発売された、サムスンの折りたたみスマホ「Galaxy Z Flip」。海外版のSM-F700F/DSを購入して2週間ほど使ってみたのでレビューします。
「Galaxy Z Flip」ってどんな機種?
Galaxy Z Flipは、2019年に発売された「Galaxy Fold」に続いて、折り曲げられる特殊な有機ELディスプレイを採用したフォルダブルスマートフォンです。
第1弾のGalaxy Foldは“横折り”、いわばスマートフォンとタブレットを行き来できるスタイルだったのに対して、第2弾のGalaxy Z Flipは“縦折り”。細長いスマートフォンを2つに折りたたんでコンパクトに持ち運べるようになっています。
スペック的にはSnapdragon 855 Plusと8GBメモリを搭載するハイエンドモデルですが、5Gには対応しません。先進性を最重視したアーリーアダプター向けの機種だったGalaxy Foldとは少し方向性が違うようで、女性向け、インフルエンサー向けの機種としても訴求されています。
外観:懐かしくも斬新なスタイル


何と言っても目を引くのはこの独特のスタイル。正方形に近い不思議なサイズ感の端末を開くと、継ぎ目のない1枚の大きな画面が現れます。
22:9という現行スマートフォンではトップクラスに偏った比率の縦長ディスプレイを搭載。本体の外寸はS10+やS20+に近いですが、ディスプレイは少し幅が狭く、WebサイトやSNSなど縦スクロール表示のコンテンツと相性が良い縦横比となっています。
破損を防ぐためのヒンジ付近の構造などは、難航したGalaxy Foldの教訓が生かされているようで、よく似た作りになっています。一方でフォルダブルディスプレイの構造は少し変わり、一部の層にフィルムではなく超薄型ガラス(UTG)が採用されました。
誤解されがちですが、Z Flipのディスプレイの最上層はガラスではなく、従来通りの樹脂フィルム。UTGの上にもう1枚保護層があります。つまり、引っかいたり強く押したりしたら傷が付くのはFoldと同じです。
画面を折り曲げた状態でも表示は継続されます。一応この状態を検知するようにはなっていて、カメラなど一部の標準アプリは折り曲げるとUIが変化します。
UTGが採用されたことで折り目は少し目立ちにくくなったようですが、角度や表示色によっては気になりにくいものの、目視でも触感でもはっきり認識できます。それでも、通常のディスプレイを組み合わせた2画面スマートフォンのように繋ぎ目で表示が遮られることはないので、コンテンツへの没入しやすさは段違いですね。
Foldと同様に、ディスプレイの周囲は一段高い保護フレームで囲まれています。画面との段差はあるものの、端からのスワイプインを多用するAndroid 10のジェスチャー操作でも特に違和感なく使用できたので、実用上の支障はあまりないと思います。
フォルダブルディスプレイ+画面内指紋認証の組み合わせはまだ難しいのか、指紋センサーは側面に配置されています。一方で、インカメラは普通のスマートフォンのようなパンチホール型で画面内への埋め込みに成功。どこか試作品っぽさのあったFoldのインカメラ周りと比べると洗練された印象です。
折りたたんで外側を見ると、カメラの隣に小さなサブディスプレイがあります。時刻や通知アイコンを表示でき、音楽再生中の操作やカメラのプレビューも可能。“ガラケーのサブディスプレイ”とさほど変わらない感覚ですが、カメラ起動時の表示にはちょっと感動。見かけによらず高精細かつヌルヌル動きます。
折りたたみギミックを除いて考えると、見た目はちょっと地味ですね。凝った仕上げでもなければカメラやサブディスプレイ周りのデザインも素っ気なく、高級機にはあまり見えません。手に取れば質感は良いですし、折りたたんだ状態での詰まった重量感もほどよく、静かにスムーズに開閉するヒンジもかつて日本メーカーが目指したものとは別路線の上質さがあり、それなりに高級感は伝わってくるんですけどね。写真で見る分には華がないかも。
ちなみに、外観で日本版か海外版かを識別できるポイントはここ。ヒンジに入っているロゴが日本版は「Galaxy」、海外版は「SAMSUNG」です。
折りたたんだ状態ではずっしりと詰まった高級感のある重さを感じますが、開いた状態で考えるとこのサイズで約183gは最近のハイエンドモデルとしては普通。そんなわけで、使用中はさほど重いスマートフォンだとは感じませんでした。
この形状だと二つ折りフィーチャーフォンの感覚でスキマに指を入れて片手で開きたくなりますが、幅は普通のスマートフォン並みにありますし、ヒンジも勢いをつけて一気に開く構造ではなく最後まで押さないといけないので意外と難しいです。特にケースを装着した場合、基本的には両手で開けることになるかと思います。
スペック・動作:ちょっと珍しい「Snapdragon 855 Plus」搭載機
Galaxy Z Flip(SM-F700F/DS)のスペック表 | |
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SoC | Snapdragon 855 Plus |
RAM | 8GB |
ROM | 256GB(UFS 3.0) |
外部ストレージ | × |
画面サイズ | 6.7インチ(22:9)有機EL |
画面解像度 | 2636×1080(FHD+) |
バッテリー容量 | 3300mAh |
充電端子 | USB Type-C |
OS | Android 10 |
アウトカメラ | 約1200万画素×2(超広角+広角) |
インカメラ | 約1000万画素 |
サイズ | 約167.3×73.6×7.2mm |
重量 | 約183g |
S20シリーズと同時に発表された機種ですが、SoCはSnapdragon 865ではなく「Snapdragon 855 Plus」を採用。これは2019年のハイエンドモデルに数多く搭載されたSnapdragon 855のオーバークロック版で、採用機種はASUSのROG Phone IIなどごく一部に留まっています。
Z Flipであえて採用した理由はおそらく、Snapdragon 865にすると5G対応の影響で4G端末を作ろうとしてもモデムチップが別途必要になってしまうことでしょう。バッテリー容量が3300mAhと少々頼りないので、モデム統合型の省電力性を取ったと思われます。とはいえ、855 PlusもハイエンドクラスのSoCとして性能は申し分なく、UFS 3.0の高速ストレージとの組み合わせということもあって動作は至って快適です。
スペックの参考に、ベンチマークアプリの計測結果を以下に載せておきます。AnTuTu Benchmarkが色々あってPlayストアから消滅中なので、Geekbench 5の計測結果のみとなりますがご容赦ください。
UI・機能:「One UI 2」は縦長ディスプレイと相性抜群



ハードは特殊ですがソフトは意外と普通。Android 10のGalaxyシリーズに搭載されている「One UI 2」そのままですが、One UI自体が大画面端末の片手操作に配慮した設計になっていて、Z Flipのために作られたUIかと錯覚するほどマッチしています。主要な操作を画面の下側に集中させて、上端まで指を伸ばしたり持ち替えたりしなければならない操作をなるべく減らしてあるので、22:9という現行スマートフォンでもトップクラスの縦長ディスプレイを搭載しているZ Flipと相性抜群。
縦長なスマートフォンというと2019年以降のXperiaシリーズ(21:9)が思い浮かびますが、Z Flipはさらに縦長な22:9の縦横比。Webサイトの記事を読んだり、SNSのタイムラインを見たりするには使い勝手が良いです。(表示サイズの設定にもよりますが)1画面に収まる情報量が多く、縦方向に長く続く物を見るには便利。
一方、16:9が主流の動画サイトなどでは全画面表示にしても今ひとつ大画面を生かしきれないもどかしさがありますが、画面分割で2つのアプリを同時に起動して“ながら見”したいときには広く使えて良いですね。
縦長ディスプレイの操作を補助する機能として、側面の指紋センサーを上下にスワイプすると通知パネルを開閉できるジェスチャー機能があります。これを使うと操作がさらに楽になるのでおすすめ。
フォルダブルスマホのための特別な機能は、Z Flipには後述のカメラ関連を除けばほぼありません。しかし、それによって使い勝手に不満が残るかというと決してそうではなく、むしろOne UI 2の特性とよくマッチしていて、そのままでも特殊なハードウェアに十分対応できている印象。
ひとつ惜しい点を挙げるなら、サブディスプレイでできることをもう少しだけ増やしてほしいですね。テザリングのON/OFFとか、開かずにできたら便利なのになー、と。
カメラ:“縦折り”ならではのUIで可能性が広がる
約1200万画素×2のデュアルカメラで、ひとつはF1.8の広角レンズ、もうひとつはF2.2の超広角レンズを搭載。広角側のカメラはPDAFや光学式手ブレ補正に対応しています。
20万円近い高価な機種であることやターゲット層、利用シーンを考えると、カメラの仕様がGalaxyシリーズ内で最新・最良の物ではないのは少々残念。ここは削ってはいけないところだったのではないかと思います。
カメラユニットの性能がどうこうというよりも、Z Flipのカメラは「縦折り」と「サブディスプレイ」を最も有効活用できる機能だということが重要だと思います。90度折り曲げた状態で置けば、三脚などの用意がなくてもいつでもハンズフリーで撮影できます。
なお、屋外でこの撮り方をする場合はケースの装着を強く推奨します。背面ガラスがすごく滑るので、手すりなどに置いて撮ろうとするとヒヤヒヤすることに……。
この「曲げて撮る」使い方では自動的にカメラアプリの上半分だけにプレビューが表示されるようになります。さらに、この状態で横向きの動画を撮れるように、通常とは90度違う方向にクロップすることも可能(16:9のみ)。もちろんセンサーを使う有効面積は狭くなりますが、使い勝手の面ではありがたい機能です。
そして、サブディスプレイを使った撮影も楽しい機能のひとつ。本体を折りたたんだ状態で電源ボタンを2回押すと、カメラが起動して1.1インチの小さな画面にカメラ映像が映ります。この状態でカメラに手のひらを向ければシャッターを切ることができ、通常とは一味違った撮影体験ができます。
また、実はメイン画面でカメラアプリを使っている時にも裏側のサブディスプレイに映像を出せます。他撮りでカメラを向けながら、被写体となる人も小窓で自分の写りを確認できるというわけですね。
以下、作例はクリックして大きいサイズで見られます(サイトの仕様上、原寸ではありません)。
仕様に物足りなさはあるものの、写り自体は悪くありません。ディテールが甘かったり超広角で端が流れたりとやや気になるところもありますが、発色が良く全体的な見栄えは良好です。
「シーン別に最適化」という機能を有効にしておくと被写体を認識して自動補正が入ります。上の2枚はシーン別最適化ON/OFFで撮り比べたもので、被写体を料理と認識した場合は少し彩度を上げて暖色寄りに振ってくれるようです。この手の機能はメーカーや価格帯を問わず多くの機種に搭載されていて珍しいものではありませんが、“やりすぎ感”が少なく適度な補正だと感じました。
広角+超広角のデュアルカメラなので、望遠側はデジタルズームに頼ることになります。2倍までは許容範囲、4倍も記録程度の用途であれば使いどころはあるかなという印象。
ズーム操作はボタンとスライダーの両方が用意されていて使いやすいです。おそらく同じUIであろうS20 Ultraが欲しくなりました。
総評:“未来のスマホ”ではないけれど不思議な魅力がある
コストパフォーマンスを度外視してスマートフォンに20万円近く出せる狂気、ハイエンドスマホでも5G対応はまだマストではないと判断できる冷静さ、その両方を兼ね備えていないとこんな機種は買えない……というのは言い過ぎですが、購入層がごく限られているのは事実でしょう。そして、おそらく“未来のスマートフォンのカタチ”でもなければ、Galaxy Foldのように生活を変えるような利便性があるわけでもありません。
しかし、20万円近い価格や半ばバズワード化しつつある5Gへの過度な期待などは一旦置いておいて、「買うか買わないかは別として、どうよコレ?」という目線で見ると、案外多くの人の興味を惹くデバイスなのではないかと思うのです。
初物ではないにせよ、“画面が曲がる”というのはまだ大抵の人にとっては常識の外にある目新しい体験でしょうし、そういった最新のテクノロジーに興味がない人にも「スマホなのにガラケーみたい、懐かしい」と別方向の関心を持ってもらえるかもしれません。新しさと古さが入り混じったような独特の存在感が魅力で、毎日持ち歩ける個性的な持ち物として相応の価値はあると思います。




