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MX ERGO/M570tユーザーから見た、ケンジントンの新型トラックボール「Pro Fit Ergo Vertical」の魅力

親指トラックボール歴9年、マウスの使い方を忘れかけている信者です。9年使っていると言ってもニッチなジャンルですからろくに新製品の供給がなかった期間も長く、ほんの2年前までは今時チルトもできないショボいホイール、Bluetooth接続もできない専用USBレシーバー必須の代物を使い続けていました。おかげで手に馴染みすぎて、まともな製品が増えた今でもそんなものを併用している始末です。


(2年間使ってきたMX ERGO。塗装の耐久性が低いので見た目はすっかりボロボロ)

そんなわけで、良さげな新機種が出たらとりあえずご祝儀感覚で買って「ニーズはあるぞ」と主張するクセが付いてしまっている悲しき種族ですが、2年半前、ロジクールのフラッグシップであるMXのラインナップの一角に「MX ERGO」が加わってから、静かに、そして確実に風向きが変わったと思っています。だって、イケてるデスクを自慢してるタイプのブロガーさんの机にも普通にあるじゃないですか、あれ。ごく一部のオタクだけが使っている謎のデバイスだった頃からしたら考えられない事態ですよ。


話が逸れましたが、2020年2月にケンジントンから新しい親指トラックボール「Pro Fit Ergo Vertical」が発売されました。ケンジントンというと人差し指や中指で操作する大玉トラックボールのイメージの方が強く(ExpertMouseとかSlimBladeとか)、我々親指トラックボール派にとっては近いようで遠い存在。歴史を遡ればまったく出していなかったわけではないのですが、新製品の投入には少し驚きました。

ケンジントンの親指トラックボールが出るというだけでもちょっとしたニュースですが、MX ERGOよりもさらに本格的なエルゴノミクスデザイン、マウスの世界では少しずつ出始めている“縦型”という新しい設計をいち早く親指トラックボールに持ち込んだ代物です。この縦型設計は手首の負担を減らすものらしいので、親指トラックボールの利点とも相性が良さそうですよね。

そして当然のようにチルトホイール、多ボタン、Bluetooth対応(マウスユーザーは「そんなの当たり前じゃん」と思うでしょうが、違うんですよ……)。しかもMX ERGOユーザーから見ると「そうそう、それ困ってたんだよ」と膝を打ちたくなるような仕様も所々にあり、これは買いです。もちろん買います。

Pro Fit Ergo Verticalのレビューは上の記事をご覧いただくとして、今回はMX ERGOやM570tを愛用してきた親指トラックボールユーザーから見てこの新機種がどう映ったのか、そして結論としてどんな人にどの機種がおすすめなのかを書いていきたいと思います。

参考:こんな機種を使っている人が書きました


どんな機種を使った上での評価かが分からないと参考にしにくいと思うので、簡単にトラックボーラーとしての自己紹介を。最初に使ったのは2011年頃、まだM570tではなくM570を買えた時代でした。今は自宅用に「MX ERGO」(約2年使用)、会社用に「M570t」(約3年使用)の2台を使っています。Pro Fit Ergo Verticalをどこで使うかはまだ考え中。

他に使っていた機種は、エレコム「EX-G」シリーズの左手用と右手用、発売当時はほぼ唯一のBluetooth対応機だったナカバヤシの「Digio2 Q」など。標準球の転がりがとにかく悪いエレコムの機種に手を出した頃にボール交換の奥深さを知ってしまい、M570純正球やペリックス製の交換用球なんかもストックしています。親指トラックボールは供給の少ないぬm……水たまりなのでお金かかりませんよ。ぜひ。

MX ERGOユーザーから見たPro Fit Ergo Verticalの魅力


手首の負担を減らすために傾斜を付けたエルゴノミクスデザインの親指トラックボールという意味では、この2機種は近い存在です。一般的なマウスや親指トラックボールに近い平らな形状にもできるMX ERGOに対して、60°という思い切った角度に固定されているのがPro Fit Ergo Verticalなので、MX ERGOを使って「ナナメだと手首が楽」という実感がある人なら試す価値はあるでしょう。MX ERGO以上にエルゴ全振りなので負担の少ない快適なポジションで使えるのは大きなメリットです。


快適なエルゴデザインのデバイスを追い求めてこれらの機種にたどり着いた人にとっては想像しにくいかもしれませんが、MX ERGOが出た時、M570/M570tからの乗り換え組にとっては「角度を付けられる」というのは正直あまり響いていなかったように思います。それよりは、チルトホイールやBluetooth接続に「やっと来たか」と喜んだものです。しかし、今はほとんどナナメ(20°)で使っている程度には、使い込むうちに効果を実感できました(まあ、MX ERGOは背が高く丸っこいので、0°モードが使いにくいだけとも……)。

MX ERGOは「初めてトラックボールを使う人」「エルゴ目当ての人」には概ね好評だった一方で、「このジャンルでは覇権を握っているロジクールからようやく出た待望の新型機」という目線で見ていた人にとっては意外と不満も多い機種でした。マグネットを使った簡易的な変形ギミックのせいでガコンと不意に切り替わってしまうのが邪魔だったり、金属プレートのせいで重かったり、掃除がしにくかったり(ペンより細い棒って、常備してます?)、Unifyingレシーバーをしまう場所がなかったり、ラバー塗装は最初は良いけれど経年劣化が早かったり……細かいところがイマイチ。


その点、Pro Fit Ergo Verticalは角度固定なので手の置き方や力のかけ方は気にしなくて良いですし、大きさの割に軽いですし、裏面からボタンひとつで簡単にボールを押し出せます。これ、本当に大事ですよ。トラックボールは手入れをサボるとはっきりと操作感が悪くなりますが、MX ERGOのような面倒な作りだとどうしても「転がりが悪くなってから棒を探して掃除」という感じになりがちなので損。気が向いたときにボールをポンと外して掃除できるのが一番です。

M570tユーザーから見たPro Fit Ergo Verticalの魅力


M570シリーズの歴史をざっくり説明すると、2010年にM570が発売され、2013年に見えないところで微妙に仕様が変わって値上げされたM570tに切り替わり、2018年には保証期間が3年から1年に短縮されたSW-M570が登場しました。「10年前の設計のまま値上げして保証も削る」というとんでもない商売をしながら根強いファンがいる謎の製品です。

そんなM570シリーズと最新のPro Fit Ergo Verticalを比べると、月日の流れを否応なく見せつけられます。チルトホイールもあるし、ボタンもたくさんあるし、専用レシーバーとBluetoothを使い分けられるし、DPI切り替えもできます。マウスからの乗り換えなら当たり前でも、M570シリーズのユーザーにとっては「今時の機種だ……」と思ってしまうポイント。

エルゴノミックな特殊形状が合うかは人それぞれなので、正直試してみないと分かりません。価格的にはMX ERGOより少しだけ手軽に試せます。あと、ラバー塗装ではありませんし、バッテリー内蔵ではなく乾電池駆動なので、MX ERGOよりは寿命が長そうなのも良いですね。

こんな人にオススメ


3機種の親指トラックボールが手元にあるものの、今のところ「これが最強」と断言できる機種はありません。それぞれの長所と短所、どんな人に向いているかを整理しておきます。

Pro Fit Ergo Vertical

長所
・60°の切り立った縦型エルゴデザイン
・可動域の広いボール周り
・左側面にもカスタムボタンを配置した多ボタン仕様
・専用レシーバーも使えば3台のPCをボタンひとつで行き来できる
・エルゴデザインなのに掃除しやすい

短所
・ボタンが遠いので手が小さいと疲れるかも
・ボールの位置が手前寄りなので親指の長さや操作スタイルによっては窮屈
・単3形電池が2本も必要

こんな人にオススメ
大胆なエルゴデザインはスイートスポットが意外と狭め。雑な環境で使うとかえって負担になる場合もあり、デスクやPCチェアなども含めてしっかりエルゴノミックな作業環境を作り上げている人が最後の1ピースとして組み込むポインティングデバイスとしては優れていると思います。

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MX ERGO

長所
・20°の適度な傾斜は作業環境を問わずマッチしやすい
・MX基準のホイールは親指トラックボール界では随一のクオリティー
・減速ボタンがボールのすぐ隣にあるので、繊細な操作が必要な場面に対応しやすい
・「Logicool Flow」で2台のPCを行き来でき、ファイル転送まで簡単にできる
・充電式なので単3形乾電池・充電式をストックしなくて良い

短所
・ボールを外して掃除しにくい
・塗装やソールの耐久性が低い
・マグネットによる変形ギミックは意図せず発動したり持ち歩きにくかったりと邪魔
・0°状態で使うと背の高さが気になる

こんな人にオススメ
微妙に行き届いていない部分もありますが、ホイールの操作感などはマウスよりも遅れた製品が多い親指トラックボール界では格の違いを感じる出来。プレミアム路線の親指トラックボールは少ないので、安っぽい・古くさい機種はイヤという人やMXブランドに惹かれる人にはこれしかないでしょう。

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M570t(SW-M570)

長所
・普通のマウスに近い平べったい形状なので作業環境や使用経験を問わず使いやすい、背が低いのでキーボードとの行き来も楽
・エルゴデザインではないけれどしっかり手を置ける馴染みやすい形状
・(比較的)安いのでトラックボール初心者にも勧めやすい

短所
・チルトもできない安っぽいホイール
・Unifying専用なのでUSBポート必須
・接続先切り替えや減速などの便利な機能はない

こんな人にオススメ
シンプルイズベスト、王道にして完成形。ホイールやボタンはともかく、主役のボールに関しては同レベルかこちらの方が良いぐらい。古い製品なので機能面では見劣りするものの、これから親指トラックボールの世界に触れてみたい人には最初の1台としておすすめ。

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(保証期間3年のまま新ロゴに切り替わった現行M570tなんてあったんですね、てっきり保証期間1年で新ロゴのSW-M570に完全移行したのかと……)

余談:結局やっぱりM570が好き


以下は個人的感想なので特に参考にならないと思います。読まなくていいです。

最新機種を加えた3台を使い比べてみて、この機種はここが良い、ここが悪いと改めて考えてみると、「M570の後継機が出ないから、仕方なく蛇足付きのなんか違う高級機を使っている」程度で、特に気に入っているつもりはなかったはずのMX ERGOに意外と馴染んできていることに気付きました。まあ、2年も使っていますからね。気に入らない部分は2年前も今も変わらないのですが、敷居の低い適度なエルゴ感が合っているのかもしれません。

ゴリゴリの快適仕様デスクじゃなくても万人がある程度快適になるポジションという意味では結構よく出来ているんですよね。普通のトラックボールの感覚で触っても不自由しませんし、これって絶妙な塩梅で成り立っていたんだなあということに、純粋なエルゴ設計のPro Fit Ergo Verticalを使ってみて気付きました。

MX ERGOの良さを見直した一方、場所や使い方を問わずオールラウンドにしっくり来るのはやっぱりM570t。まだまだこれは手放せませんね。Bluetoothとチルトホイールだけ付けてくれればもう10年使えると思うんですけど……そろそろなんとかなりませんかねぇ、ロジクールさん。

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