
Snapdragon 865/765の5Gモデム事情
Qualcommが2019年12月に発表したモバイル端末向けSoC(System on a Chip)の「Snapdragon 865」「Snapdragon 765」は、5G端末に搭載することを前提に設計された最新SoCです。
Snapdragon 865はハイエンド、Snapdragon 765はミッドハイレンジの機種に使われるSoCなので単純に性能の上下関係で差別化された製品と捉えがちですが、今世代では、性能差のほかにもうひとつ、大きな違いがあります。5Gや4Gの通信に必要な「モデム」の扱いです。
Snapdragon 865はモデムが別途必要、765はモデムも統合
効率化や小型化の観点から、モバイル端末向けSoCではモデムもワンチップに統合するのが多数派です。ただ、初期の市販5G端末ではモデムの統合には至らず、Snapdragon 855搭載機であれば対になるSnapdragon X50という5Gモデムを別途載せる必要がありました。時代を遡れば、LTE初期にもアプリケーションプロセッサとモデムをそれぞれ搭載せざるを得なかった時期があり、過渡期特有の事情と言えます。
5G対応SoCの話に戻ると、後続製品が出始めてからはHiSiliconの「Kirin 990」やMediaTekの「Dimensity 1000」のように5Gモデムの統合にいち早く踏み切った物が出てきて、Qualcommは少し先を越されることに。
そして、Qualcomm初の5Gモデム一体型SoCとして登場したのがSnapdragon 765です。一方、同時に発表されたSnapdragon 865は、前世代の855と同様にモデムが別途必要な仕様となりました。
上位の865はモデムを統合せず、765だけ統合した理由
こう聞くと、「なぜ下位モデルだけ統合して、肝心の上位モデルでは統合しないのか?」と不思議に思う人もいるかもしれません。この理由は単純で、求められる性能、目的が違うからです。
ミッドハイレンジ向けのSnapdragon 765の役割は、初期段階ではハイエンド機だけだった5G端末のラインナップの裾野を広げ、普及させていくことにあります。そのために、コストや搭載スペースなど、さまざまな面で端末メーカーにとって扱いやすい物を提供することが重視されます。統合されているモデムは「Snapdragon X52」という専用品で、下り最大3.7Gbps。最新のX55や以前のX50よりも通信性能は控えめですが、まずは「ワンチップにまとまった5G対応SoC」の実現を優先させた仕様です。
一方、ハイエンド向けのSnapdragon 865ではまず最先端を走る通信性能を追求する必要があり、「Snapdragon X55」という下り最大7.5Gbpsの新型高速モデムとの組み合わせを前提に作られています。このクラスの5Gモデムをワンチップに統合することは現時点ではまだできなかったと考えられます。
もちろん、一般論としては統合したほうが効率化、省電力化に繋がりますし、実装面積でも有利になります。かつてLTEスマートフォン向けのSoCが辿った歴史と同じように、遅かれ早かれハイエンド向けでもモデムまで統合されたSoCに移行していくでしょう。
「Snapdragon 865搭載の4G端末」は作れない?
「Snapdragon 855+Snapdragon X50」も「Snapdragon 865+Snapdragon X55」も5Gモデムが別載せになるという点では似ていますが、前者はあくまで5Gモデムだけが独立していて、後者は2G~5Gのモデム機能すべてがX55にまとめられています。5G端末を作る上ではともかく、まだハイエンド端末を4Gで投入する必要がある市場においてはメーカーの悩みの種になりそうです。
Snapdragon 865と組み合わせられる4Gモデムは用意されていないようで、たとえばVivoの最新機種「iQOO 3」には一部市場向けに4Gモデルが設定されていますが、これはX55モデムを採用しながら5Gを無効にした仕様。RF部品の構成は異なると思われますが、コスト的には苦渋の決断なのではないかと思います。
Source: Qualcomm