
楽天モバイルが「Rakuten Mini」を今すぐ発売できない隠れた理由
楽天モバイルは、5,000名限定の「無料サポータープログラム」などを発表した9月6日の発表会で、(建前上)MNO参入時点でのローンチラインナップとなるスマートフォン・モバイルルーター計9機種を発表しました。ここでいう9機種とは、Xperia Ace、Galaxy A7、Galaxy S10、AQUOS sense3 lite、AQUOS sense3 plus、arrows RX、OPPO Reno A、Aterm MR05LN、Aterm MP02LNを指し、10月から順次発売されています。
しかし、この日に発表された端末はこの9機種だけではありませんでした。むしろ、一番注目を集めたであろう機種が含まれていないのです。それは、楽天モバイルオリジナルのスマートフォンである「Rakuten Mini」。その名の通り超小型のスマートフォンで、それでいておサイフケータイを搭載、さらにeSIMを採用するというオンリーワンな仕様でマニアから注目される機種です。
しかし、Rakuten Miniは「最初の9機種」に含まれていないばかりか、10月末時点でもいまだに「発売日未定」のまま。特殊な機種ですし開発が難航しているのかな?と捉えることもできますが、開発の進捗以前に現時点で発売時期を明言できない理由があるのではないかなと筆者は考えています。
総務省「モバイル市場の競争環境に関する研究会(第18回)」配布資料より、MVNO委員会の提出資料
実は、日本の現行の法制度では、eSIMによる音声通話対応の通信サービスの申込を非対面で受け付けることがそもそもできないんですね。IIJが「ベータ版」として提供している個人向けeSIMもデータ通信のみ、音声通話はもちろんSMSも使えません。Apple Watchのワンナンバーサービスはなぜオンライン受付で提供できるのかちょっと不思議ですが、おそらく、通常の契約プロセスを経た親回線の存在が前提になっていることや新たに追加で電話番号を取得するわけではないことから、例外的にセーフになっているものと思われます。
「非対面で音声eSIMを売れない」理由は、携帯電話不正利用防止法によって定められている本人確認手法の問題です。通常、Web上で回線契約を申し込む場合の本人確認というと「免許証などの写真を撮ってアップロードする」という手続きがありますよね。実はこれだけで本人確認が完了しているわけではなく、「転送不可や本人限定受取の形でSIMカードや端末が送られてくる」というちょっと面倒な部分も、本人確認の一環なのです。
これがeSIMになると、端末上でポチポチと回線契約からアクティベートまで済ませることができ、郵送・宅配で実在性を確認することはできなくなります。
代替案としては、決済アプリなどで既に導入されているような「eKYC」、顔認証技術を活用した本人確認方法が携帯電話不正利用防止法でも認められるようになれば、eSIMの特性を活かしたサービスを提供しやすくなるはずです。
総務省「モバイル市場の競争環境に関する研究会(第18回)」配布資料より、楽天モバイルの提出資料
さて、Rakuten Miniの話に戻りましょう。現行制度でも、「実店舗で売る」あるいは「オンラインで端末販売と回線契約をセットで行い、SIM情報を書き込んだ状態で出荷する」だけであれば問題はなく、通常のSIMカードを用いる端末と同じように販売できます。しかし、「端末だけを買ったり譲り受けたりして、後から好きな時にオンラインでeSIMの契約を申し込む」ことはできず、持ち込み契約が必要になってしまうはず。これでは片手落ちでしょう。
なにより、あえてRakuten MiniをeSIM対応端末にしているのは、早い段階からeSIMに意欲的に取り組んでいくぞという意思表示でもあると思います。システム対応にもそれなりのコストや技術的なノウハウが必要なはずですから。バカ売れする大ヒット機種にはならないでしょうし、これだけのためにわざわざeSIMに取り組むとは考えにくいです。
「とりあえずRakuten Miniを売る」ということ自体はあまりeSIMの利点が出てこない形であればすぐできるかもしれませんが、その先に見据えているであろう自社で取り扱っていないeSIM対応端末、はっきり言ってしまえばiPhoneユーザーにアプローチするということを考えると制度の壁をクリアする必要があり、「楽天モバイルのeSIMサービス提供≒Rakuten Miniの投入」は思うほど近々ではないのかもしれません。
……まあ、その前にちゃんと商用サービスとしてスタートラインに立てるのかという大きな問題があるわけですが。
Source: 総務省

1月23日追記:発売されました
Rakuten Miniの発表から半年近くが過ぎ、無料サポータープログラム第2弾の開始とあわせて、サポーターかつ一部の実店舗限定という限られた形ではあるものの発売にこぎつけたようです。音声eSIMのオンライン契約の課題はまだ解決していないので、正式サービスの開始までには、制度面での対応が整って販売しやすくなるといいですね。
